12.19.2008

「永世竜王」激闘譜として語り継がれるだろう ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

「永世竜王」激闘譜として語り継がれるだろう ・・・ 編集手帳 八葉蓮華
 将棋の大山康晴十五世名人に、講演をした折の逸話が残っている。演壇から降りて係の人に、「お客さんは何百何十何人でしたね」と告げた。主催者の記録と、ぴたり一致していた◆「客席は将棋盤と同じマス目だから、ひと目で分かりました」、そう語ったという。米長邦雄永世棋聖には「兄たちは頭が悪いので東大に行ったが、私は頭が良いので棋士になった」という伝説の語録もあるが、棋士の頭脳ほど神秘的なものはない◆郷里で“神童”と騒がれた少年たちの一部が選ばれてプロになり、ほんの一握りがタイトルを手にする。「永世」の称号となれば、気の遠くなる天の高みである◆将棋界の最高棋戦、竜王戦で渡辺明竜王(24)が挑戦者の羽生善治名人(38)を破り、5連覇を果たして初代「永世竜王」の資格を手にした。3連敗から4連勝は将棋タイトル戦の歴史で初めてという。「すわ逆転か」「いや再逆転か」と最後の最後まで優劣不明だった最終局は、激闘譜として語り継がれるだろう◆神に愛(め)でられし頭脳二つが白刃を交えて綴(つづ)った棋譜を眺めつつ、神に疎んじられしわが頭脳も芯まで痺(しび)れている。

12月19日付 編集手帳 読売新聞

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