「変」年越しの晩はめでたい言葉を口ずさみ、厄払い・・・ 編集手帳 八葉蓮華
年越しの晩に商家をまわり、めでたい口上を述べて祝儀をもらう。厄払いという。ある男、小遣い欲しさに真似(まね)してみたものの、口上のカンニングペーパーを読み違えて思わぬ恥をかく…上方落語「厄払い」である◆「鶴は千年、亀は万年」と言うべきを「亀は一カ年」と読んでしまい、「えらいまた寿命の短い亀やな」と、商家の番頭を驚かせた。いつの世にも漢字の苦手な人はいる◆在任期間は「一カ年」365日、えらいまた寿命の短い政権やな――と世間をたまげさせ、福田康夫氏が首相の座を降りたのは9月である◆歳末恒例「今年の漢字」に「変」が選ばれたという。深刻な金融危機に、揺らいだ食の安全と、変事を数えて五指に余るこの一年だが、政権を投げ出すような首相交代劇も生々しい「変」の記憶だろう◆あとを引き継いだ麻生首相も、与党内には離反の芽が兆し、支持率も急落して、大変の「変」の字が身につきまとう。年越しの晩はめでたい言葉を口ずさみ、厄払いもいいだろう。「万年」を「一カ年」と読み違えても気にすることはない。いまの迷走を見れば、一カ年もまた長寿である。
12月13日付 編集手帳 読売新聞
八葉蓮華、Hachiyorenge