12.11.2008

「借金返済」歳出削減などの構造改革路線を推し進めていく・・・ 編集手帳 八葉蓮華

「借金返済」歳出削減などの構造改革路線を推し進めていく・・・ 編集手帳 八葉蓮華
 舟から剣を川に落とした男がいる。あとで捜そうと、舟べりに目印の刻みをつけた。岸について、刻みを頼りに川にもぐったが、剣は見つからなかった◆「小泉改革」を旗印に、歳出削減などの構造改革路線を推し進めていくグループが、自民党内で相次いで動きを強めているという。中国の古典「呂氏(りょし)春秋」の伝える故事を思い浮かべた◆麻生内閣から民心が離れつつあるのを受け、人気の高かった小泉政権の成功体験をもう一度、というのだろう。「時」の川は流れ、当時とは景況が一変している。病床で読経を聞いているような違和感を覚えぬでもない◆工具箱に「小泉改革」という金づちしかなければ、ノミが必要なときも、鉋(かんな)が必要なときも、金づちを振り回すしかない。かつては自慢の道具であったにせよ、いま叩(たた)けばトン、チン、カンと音の出そうな金づちは、党の工具箱の中身が貧弱であることを世に知らしめるだけだろう◆職を失い、路頭に迷う人々の、溺(おぼ)れかけた川がある。その濁流から目をそむけ、何年か前に舟べりに刻んだ“自民圧勝”の目印に頼ったところで、なくした剣は見つかるまい。

12月11日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge