12.02.2008

友は別れて友と知り・・・ 編集手帳 八葉蓮華

友は別れて友と知り・・・ 編集手帳 八葉蓮華
流行語でも新語でもないので、世間でそう話題になることもなかったが、北京パラリンピックを報じる本紙で目にした宝石のような言葉が忘れられない◆男子400メートル、800メートル(車いす)で2冠を手にした伊藤智也選手が、金メダルの喜びを語っている。〈いままでの人生で5番目にうれしい。子供が4人いるので…〉。その子たちが生まれた時はもっとうれしかった、と◆師走の声を聞くといつも、その年に出会った宝石を胸のなかの手帳から取り出して眺める。昨年は70歳で逝去した作詞家阿久悠さんのお別れの会で、会場に飾られていた詩を書き留めた。〈夢は砕けて夢と知り/愛は破れて愛と知り/時は流れて時と知り/友は別れて友と知り〉◆手帳には悲しい宝石もある。拉致被害者の横田めぐみさんが小学5年のとき、旅先の福島県から両親と弟たちにあてた手紙である。一家の写真展で見た。〈たくや てつや おとうさん おかあさん もうすぐかえるよ まっててね めぐみ〉◆今年の「新語・流行語大賞」が〈グ~!〉その他であることに異存はない。しまう場所が宝石とは違うだけである。

12月2日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge