12.06.2008

「挑戦する企業精神の象徴」 いかにして生き残るか・・・ 編集手帳 八葉蓮華

「挑戦する企業精神の象徴」いかにして生き残るか・・・ 編集手帳 八葉蓮華
 ホンダの創業者、本田宗一郎さんは読書嫌いだった。「立派なことが書いてある本はどうせ嘘(うそ)だから読まない」と。活字文化振興の面からはあまりお薦めできない説だが、百の能書きよりも一つの実証を大事にした、その人らしい◆亡くなるまで自動車レースの最高峰F1世界選手権に血をたぎらせたのも、いいクルマ、いいエンジンであることを百の宣伝文句ではなく一つの勝利によって実証したかったからだろう◆「挑戦する企業精神の象徴」と自他ともに認めてきたF1から、ホンダが撤退する。金融危機に端を発した景気後退と自動車販売の不振で、年間500億円にのぼる費用の負担が困難になったという◆「企業は実力の範囲内で健全な赤字部門を持たねばならない」とは、旭化成で社長、会長を務めた故・宮崎輝(かがやき)氏の言葉だが、ホンダに限らず、自動車業界に限らず、企業精神を支える「健全な赤字部門」を抱える余力は限界に近づいているのだろう◆「本には過去のことしか書かれていない」と本田語録にある。いかにして生き残るか。企業には、万巻の書物にも答えの見つからない問いがつづく。

12月6日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge