格言に〈聖人に夢無し〉とある。聖徳のある人は心に煩いがなく、安眠して夢を見ない、と。中国の古典「荘子」に由来するらしい
夢を眠りの友として毎夜の愉(たの)しみにしている身は「俗人」のお墨付きをもらったような気分だが、心配事が夢に現れるのはしばしば経験することで、格言を頭から否定もできない。スポーツ選手などは試合の前、夢の中で苦戦することもあるだろう
日本と五輪の歩みをたどる本紙運動面の連載「日本の100年」で、夢の話を読んだ。東京五輪に臨んだレスリング日本代表候補の合宿では、負けた夢を見た選手がいると、「もう一度寝て、勝ってこい」、コーチがそう言ってどやしつけたという
むちゃと言えばむちゃな指示だが、その気迫のおこぼれをもらって読後の心がいくらか浮き立たないでもない。政治も経済も袋小路に入って鬱々(うつうつ)とする今、選手とコーチの一人二役を演じてわが身にスパルタ指導を試みるのも元気回復の一策だろう
書いた記事が罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びる夢に、はっと目の覚める夜半がたまにある。「もう一度寝て、書き直してこい」と、どやされても困るが。
4月2日付 編集手帳 読売新聞
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