4.04.2009

独裁者を称賛しなくてはならない人々の悲しみ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 歌人の河野裕子さんに、子をもつ親ならば誰しもうなずくだろう珠玉の一首がある。〈しつかりと飯を食はせて陽(ひ)にあてしふとんにくるみて寝かす仕合(しあわ)せ〉

 「仕合せ」に感じているのは誰か――という問いには十人が十人、「親」と答えるだろう。それが正答には違いないが、「為政者」もあながち誤答と言えまい。自国の民の胃袋を満たし、すこやかな眠りを与えることは国政を預かる者の使命である

 人工衛星だか弾道ミサイルだか、飛ぶのが何かは知らないが、国民を飢えさせ、医薬品を行き渡らせることもできない国家指導者がかりそめにも夢みることではない。北朝鮮の予告した「発射期間」(4日~8日)を迎えた

 頭上を脅かされる日本人にとっては憤って憤りすぎることのない暴挙だが、それが“成功”すれば腹をすかせた身で、あるいは満足な医療も受けられない病床で、独裁者を称賛しなくてはならない人たちも哀(あわ)れである

 発射には天候も影響する。しっかりと飯を食うことも、陽にあてし布団にくるまることも許されない人々の悲しみよ。その日、その時刻、その場所で涙雨となって降れ。

4月4日付 編集手帳 読売新聞
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