4.19.2009

江戸東京博物館で「手塚治虫展」トキワ荘の天井板の一枚に描いてくれたもの・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 焦げ茶色にくすんだ板の上半分には、フェルトペンで「リボンの騎士」が描かれている。その下にベレー帽と丸メガネで机に向かう自画像。「五方面記者クラブのみなさんへ」と為書(ためがき)がある

 手塚治虫さんら多くの漫画家が暮らした「トキワ荘」の天井板だ。楽屋話で恐縮だが、5方面記者クラブとはトキワ荘があった東京・池袋界隈(かいわい)を受け持つ、駆け出し記者の取材拠点である

 老朽化したトキワ荘が1982年に解体された際、取材に来た若い記者たちのために、手塚さんがはがした天井板の一枚に描いてくれたものだ。電熱コンロを傍らに置いて炊事しながら漫画を描いた、その当時の煙やにおいが染み込んでいる

 自画像の手塚さんは、裸電球の下で継ぎ当てだらけの服を着て、迫る締め切りに冷や汗をかきながらペンを握っている。誰しも若い日は無我夢中で苦しくて、でも振り返ると懐かしい時が来るのかな…と記者たちは板を眺めてきた。いつしかこうして手塚さんの気持ちが分かる齢(よわい)になった者もいる

 きのう江戸東京博物館で「手塚治虫展」が始まった。記者クラブ秘蔵の天井板も公開されている。

4月19日付 編集手帳 読売新聞
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