歌舞伎十八番、勧進帳の弁慶は「飛び六方」で花道を引っ込む。市川家の荒事(あらごと)の見せ場だ。六方とは東西南北そして天地の方向、つまり前後左右上下、宇宙の全方位である
あの豪快な引っ込みの芸を六方と呼ぶのは、〈それぞれの方向の果てまで鳴り響く堂々とした歩き方〉という意味がある。本紙ホームページ「宇宙飛行士若田光一との対話ブログ」で、市川団十郎さんから若田さんに宛(あ)てたメールに教えてもらった
〈荒事の宇宙観は、ほかに陰陽すなわち光と陰、そして生物の吸う息、吐く息、これらの要素を基軸として構成されています〉。伝統に生きる歌舞伎役者は、科学の最先端を行く宇宙飛行士と一脈通じ合うらしい
団十郎さんは、地上の東西南北天地では得られぬ感覚を伝えてほしい、と若田さんに次の問いを投げかけた。〈暗黒の陰がひろがる宇宙空間にある星々の明かり、陽光を受けて輝く地球や月、それらを受け止めて何かを感じることのできる、不規則な息をしながら生きる人間〉とは何か
奥深い問答が始まる気配だ。順調に任務をこなす若田さんの、宇宙からの返信がもうじき届く。
4月5日付 編集手帳 読売新聞
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