きょうの阪神・江夏豊投手は打てない――巨人の4番、長嶋茂雄選手がベンチで脱帽したとき、川上哲治監督は他の選手の面前で叱責(しっせき)したという。「おまえには江夏のボールを打つだけの給料を払っているじゃないか」
川上さんの長男でスポーツライターの川上貴光氏が「父の背番号は16だった」(朝日文庫)に書いている。とりとめのない連想ながら、裁判員制度を考えるたびにこの一節が胸に浮かぶ
毒カレー事件のような「直接証拠なし、動機不明、全面否認」の難事件で死刑をわが手で選び、わが声で告げる苦悩は言葉に尽くせまい。その苦悩を一身に背負う人だから国民は裁判官を深く尊敬し、重責に報いるだけの給料を払っているじゃないか。裁判員の日当(=上限1万円)とは格の違う給料を
裁判に市民感覚を反映させることが裁判員制度の目的ならば、目的の達成も安くはない給料分の内、プロが精進すれば済むことで素人を煩わす必要はない
ひと月ほどして制度が始まれば、「市民参加の歴史的な改革」という常(じょう)套句(とうく)が世に満ちるだろう。掻(か)き消されぬうちに、監督の言葉をつぶやいておく。
4月22日付 編集手帳 読売新聞
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