〈僕の恋人 東京へ行っちっち…〉。守屋浩さんの「僕は泣いちっち」は1959年(昭和34年)の歌である
それまでは三橋美智也さんの「哀愁列車」〈惚(ほ)れていながら行くおれに/旅をせかせるベルの音〉のように、恋人を残して故郷を去る青年の感傷は歌われてきたが、故郷に残る青年の嘆きはめずらしい。高度成長の光が都会を照らしはじめ、「去る悲哀」と「残る悲哀」が入れ替わった時期かも知れない
トキの世界にも別離があり、再会がある。新潟県佐渡市で放鳥され、生存の確認されている8羽のうち、オス4羽を残してメス4羽が本州に去ったと聞き、〈なんで、なんで、なんで…〉(僕は泣いちっち)と内心つぶやいた
望郷の念、断ちがたく――かどうか、メス1羽が島に戻ったという。繁殖に望みが生まれたが、トキにはトキの事情もあろうから恋の行方はさだめがたい
故郷に残る青年の親御さんも、故郷を去る乙女の親御さんも、これという手助けのできぬまま、「ただ、つつがなくあれ」と祈ってはハラハラ、オロオロ、子供たちを見守っていたことだろう。その親心が少し分かる。
4月3日付 編集手帳 読売新聞
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