タイ語の味わいを伝える五行歌がある。作者は平賀游さんとおっしゃる。〈タイ言葉はいい/あっちでもこっちでも/老いも若きも/パピプペポンと/人みなやさしい〉
「五行歌秀歌集1」(市井社)に収められた一首だが、元首もプミポン国王、なるほど弾むようなパ行が耳に心地よい言語である。「兵士を焼き殺してやる」「街がめちゃくちゃになればいい」等々、いまその国から届く物騒な物言いは似合わない
タイで混乱と緊張の非常事態がつづいている。赤いシャツを着たタクシン元首相派の反政府デモに街は荒れ、予定されていた国際会議も流れた
半年前には黄色いシャツ(反タクシン派)が空港を占拠し、やはり国際会議を延期に追いやっている。両派が代わる代わる国の体面に泥を塗り合う。観光も投資もさらに冷え込むだろう
色見本の書物をひらき、赤と黄の間に「サンライズ・イエロー」という名の橙(だいだい)色を見つけた。2色が溶け合って収拾の“曙光(しょこう)”をどう手にするか、双方に冷静な知恵が要る。権力抗争で「パピプペポンの心優しき国」の看板を傷つける愚に、政府派も反政府派もない。
4月15日付 編集手帳 読売新聞
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