4.10.2009

「喜びも悲しみも幾歳月」沖行く船の無事を祈って灯をかざす・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈もしもし/ベンチでささやく お二人さん〉の「若いお巡りさん」も、〈君を頼りに 私は生きる〉の「ここに幸あり」も昭和30年代初期の歌である

 “二人”が主題の歌はほかにもあり、孤独が基調の大衆歌謡史に異彩を放つ――とは演出家、鴨下(かもした)信一さんの指摘である。文春新書「誰も『戦後』を覚えていない 昭和30年代篇(へん)」に書いている。終戦から十年余を経て迎えた「小さな幸せ」願望の時代であったと

 あの日、列島が沸き立ったのも、恋の実りという平和あっての「小さな幸せ」に皇室と国民の心が共振したからだろう。天皇、皇后両陛下のご結婚から、きょうで50年になる

 震災があれば避難所の床に膝(ひざ)をつき、被災者の手を握っていたわりの言葉をお掛けになる。悲しむ人に寄り添い、祈ってこられた両陛下の半世紀である。お疲れもあろう。どうかご無理をなさらずに

 やはり当時の歌に、「喜びも悲しみも幾歳月」がある。〈妻と二人で沖行く船の/無事を祈って灯(ひ)をかざす〉。思えば人の世は嵐の海、人はそれぞれに「小さな幸せ」を載せた船をこいでいる。お二人の姿にその詞が重なる。

4月10日付 編集手帳 読売新聞
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