4.20.2009

「希望と勇気と少しのお金」知徳を身につけた人々が活躍する世界・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 慶応義塾を開いて実業家の育成に情熱を注いだ福沢諭吉のことを「相場などをして金をもうけることが好きな男さ」と揶揄(やゆ)したのは、旧幕臣の勝海舟だった

 他人の財力に頼らない新しい生き方を説く福沢を、勝は誤解していたのだろう。未熟な少年に経済学は不要と言う人々もいたが、判断力を養うことこそ大切なのだと福沢は反論した

 社会科の授業などを活用して金融教育に取り組む学校が増えている。貯蓄・投資の意義や賢い消費生活などについてゲームなどを通じて学習させている

 「人生には三つのものがあればいい。希望と勇気と少しのお金」。映画「ライムライト」に登場するチャプリンの台詞(せりふ)の意訳だ。「少しの」を空欄にして、生徒に考えさせる。金融広報中央委員会(事務局・日本銀行)が発行した事例集には、そんな指導も紹介されている。真の豊かさとは何かを考える契機にもなるだろう

 福沢が理想とした「文明」は、知徳を身につけた人々が活躍する世界であった。「お金で人の心が買える」とうそぶく起業家が闊歩(かっぽ)するマネーゲームの世界などは、論外だったことは言うまでもない。

4月20日付 編集手帳 読売新聞
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