4.21.2009

絶望と孤独の日、必ずや自分はこの山に登るであろう・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 琵琶湖畔の比良(ひら)山系に咲くシャクナゲの花、雑誌をひらいて1枚の写真を目にしたときの印象を、作家の井上靖は「比良のシャクナゲ」と題する詩に書いている

 いつの日か、人の世の疲労と悲しみをリュックいっぱいに詰め、写真の場所に旅することを心に期して疑わなかったという。〈絶望と孤独の日、必ずや自分はこの山に登るであろうと〉

 いつか、ここに旅する…。気分の沈みがちなとき、1枚の写真ではないが、時刻表をひらいて1個の駅名を心の薬にすることがある。童画の世界にふと誘われるような北海道・JR日高線の「絵笛(えふえ)」や、宮崎県・高千穂鉄道で昨年廃駅となった哀愁の漂う「影待(かげまち)」などはこれまで幾度服用したか分からない

 「JTB時刻表」がきのう発売の5月号で通算1000号を数えたという。創刊は1925年(大正14年)で、現在刊行されている時刻表では最も古い。旅行好きではなくても何度かはお世話になっているはずである

 疲労と悲しみのリュックは準備万端ととのえども、いつものことで休暇と予算がままならない。時刻表を手に今夜はさて、どこの駅に降りよう。

4月21日付 編集手帳 読売新聞
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