4.28.2009

冷静に、ぬかりなく「インフルエンザ」人から人に感染していくウイルス・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 若い身そらで急死した妹を、兄は悼んだ。〈あんなに丈夫だったのに、どうしてあんな風邪ぐらいにやられたのか〉。武者小路実篤「愛と死」の一節である

 〈スペイン風邪という奴(やつ)は丈夫な者の方がやられるらしい。本当に何ということが起こったのだ〉とも。1918年(大正7年)に発生したスペイン風邪の死者は世界で約5000万人、そのなかに若年層が多くいたことも、この疫病の記憶にいっそう濃い悲劇の色を添えている

 メキシコ、米国、カナダ…豚インフルエンザの感染が広がっている。メキシコの死者は100人を超えた。かつてのスペイン風邪のような新型インフルエンザ、人から人に感染していくウイルスである可能性が高い。まずは水際の防御を固めることが歴史の悲劇を繰り返さない道である

 専門家によると、備蓄の抗インフルエンザ薬は有効であるといい、また、普通に加熱した豚肉にも感染の恐れはないという

 小説のせりふを借りれば、〈あんな風邪ぐらい〉の油断は禁物だが、〈何ということが起こったのだ〉とうろたえることもない。冷静に、ぬかりなく――それに尽きる。

4月28日付 編集手帳 読売新聞
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