人はパンのみにて生くる者に非ず・・・ 編集手帳 八葉蓮華
「働かざる者、食うべからず」は新約聖書にある言葉だが、原典のニュアンスは少し異なる。正確な和訳は、「働きたくない者は、食べてはいけない」。聖書は働こうにも職がない人まで食べるな、とは言っていない
この言葉はロシア経由で日本に広がったという。ロシア革命を主導したレーニンが聖書の言葉を「働かざる者」に変え、資産家の特権を排すスローガンにした。第2次大戦後、ソ連兵がシベリア抑留日本兵に過酷な労働を強いる際にこれを借用し、帰還兵が日本に持ち帰ったという説がある
戦後の復興と高度成長のもと、日本では勤勉の合言葉になった。働き口がいくらでもあったころは、言葉の持つ冷徹さは気にせずにすんだのだろう
時代は移り、多くの人が、寒風の下で「働かざる者…」の冷たい響きを肌で感じている。「勤労は善」だったはずなのに、君は「非正規」だから、と突然に職を奪われる。その疎外感は、衣食住への支援だけでは埋まるまい
新約聖書には「人はパンのみにて生くる者に非(あら)ず」ともある。お金持ちが給付金をもらわぬ矜(きょう)持(じ)より、よほど心を砕くべき矜持がある。
1月12日付 編集手帳 読売新聞
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