ロック・ハドソンが演じる白人の農場主はレストランで、ほかの客が人種を理由に店から追い払われるのを目にする。「もっと優しくしてやったらどうだ」。農場主は店主をたしなめ、殴り合いになった…
往年の名画「ジャイアンツ」である。米国の新大統領バラク・オバマ氏が就任演説で触れた「レストランの食事」に、胸の熱くなる格闘シーンを想起した方もあったろう
〈60年足らず前ならば地元のレストランで食事をさせてもらえなかったかも知れない父親をもつ男が今、最も神聖な宣誓をするためにあなた方の前に立つことができる〉
初の黒人大統領を戴(いただ)き、米国全土が沸いている。首都を埋めた市民の人波は「繭玉」のようにも映った。テロの懸念が絶えないその人を幾重にも包み、その人が刻むだろう歴史の一章を守る繭玉である
農場主は殴り合いに敗れた。店主は「お前さんには根負けしたよ」とばかりに、人種差別を是とする店の方針が書かれた額縁を壁から外し、倒れた農場主の胸もとに投げてよこした。深夜の演説を聴いた寝不足の頭で、ひとの心の壁から額縁が消える日を夢想する。
1月22日付 編集手帳 読売新聞
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