大相撲で「世紀の誤審」と騒がれた一番がある。判定にビデオが導入される前、1969年(昭和44年)大阪場所の大鵬―戸田戦である。物言いがつく際どい勝負は戸田の勝ちと決まり、横綱大鵬の連勝は45で途切れた
テレビ中継のビデオでは大鵬の足が土俵に残っていた。「誤審だァ」と支度部屋に押しかけた報道陣に、大鵬の語った言葉がいい。「横綱が物言いのつく相撲を取ってはいけない。自分が悪い」と
横綱も聖人君子ならぬ生身の人間で、誤審に心が乱れなかったはずがない。大相撲の魅力を「抑制の美学」と評したのは相撲ジャーナリストの杉山邦博さんだが、感情を胸に封じ込めた大鵬の言動がそれであったろう
休場明けの横綱朝青龍が初場所で見事に復活した。気迫も、相撲も申し分ない。優勝の瞬間に土俵上で見せた感情全開のガッツポーズは、しかし、伝統の美学からは遠かった
誰よりも強く、誰よりも客を呼べる現実の前では小さなことかも知れない。小さなことを許し、許されているうちに知らず知らず、大相撲が何か別種の格闘技に変わっていた…そうならないよう願っている。
1月27日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge