命のことを古語で「玉の緒(お)」という。忍ぶ恋を詠んだ式子(しょくし)内親王の歌が新古今和歌集にある。〈玉の緒よ絶えなば絶えね長らへば忍ぶることの弱りもぞする〉
私の命よ、絶えるのならば絶えておくれ。固く秘めた心が弱り、この恋が外に表れないうちに。「恋」を「情報源」に置き換えれば、色恋に縁の薄いわが身にも通じる
自分の名が明かされるかも知れないと疑えば、取材される側は口に錠をおろし、報道は成り立たない。墓場まで持っていくのでは足りず、生まれ変わっても口外してはならないのが情報源だと肝に銘じている
奈良県の放火殺人事件で少年(18)の供述調書が漏洩(ろうえい)し、精神鑑定をした医師(51)が秘密漏示罪に問われている裁判で、調書を著書に引用したフリージャーナリスト(44)が証人として出廷し、検察側の尋問に対して情報源が被告の医師であることを明かした
この事件では医師本人が著者に調書を見せたと認めているが、ほかの証拠がどうであれ、報道した側が間違っても口にしてはならないのが情報源だろう。理解に苦しむまま、玉の緒よ…と、自戒の一首を胸に繰り返している。
1月15日付 編集手帳 読売新聞
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