1.13.2009

「平成百景」日本各地の魅力ある景観を選ぶ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 江戸期の儒学者、伊藤仁斎は京都の人で、生まれて初めて海を見たのは64歳の時であったという。その海、摂津(大阪)の風景を前にして詠んだ歌がある。〈ながらへば なにはの浦の春もみつ おもへば人は命なりけり〉

息災で生きてきたお陰で浪速の海も見ることができた、と。昔の人は行動半径が狭かった。いくらか気の毒に感じたあと、いや、だからこそ一つの風景に感銘も深かったのだと思い直す

日本各地の魅力ある景観を選ぶ本紙主催「平成百景」の投票受け付けが始まった。候補地300か所には伝統の名所旧跡のほかに「旭山動物園」(北海道)や「新宿ゴールデン街」(東京)、「だんじり祭」(大阪)など多彩な風景が含まれている

数えてみると、訪ねたことのある土地は3割にも満たない。交通の便がいい時代に仁斎先生の行動半径をとやかく言えた数字ではないが、のちのち感銘を受ける種がたくさん貯金してあると思えば、いまだ知らない景観の並んだ候補地一覧(10日付朝刊)を眺めているのも愉(たの)しい

〈命なりけり〉と、いつかつぶやいてみたい風景に投じる一票もいいだろう。

1月13日付 編集手帳 読売新聞

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