背広の左襟にあるボタン穴をフラワーホールと呼ぶそうだ。だが、実際に花を挿した経験がある人はそういないだろう。サラリーマンなら、そこは会社の社章を着けるための穴である
もっとも、今はオフィス街を眺めても社章バッジをほとんど見ない。昔は、旧財閥系のマークや有名企業のロゴをひけらかすように歩く人が、嫌でも目に入ったものだ
バッジが廃れた理由はいろいろあろう。いろんな業界で合併や再編が進んだし、企業が批判される場面も増えた。そして何より、バッジ一つで組織への忠誠心を示す時代ではなくなった
そんなご時世に、厚生労働省は本省職員用の“省章バッジ”を作った。舛添厚労相の肝いりで昨年制定したシンボルマークをスーツに着け、逆風の中でも誇りをもって仕事をしよう、ということらしい
バッジは有料で、着用も任意だが、省内の売店で1000個がすぐに売り切れたという。悪いことではないけれど、大臣や上役の顔をうかがって着けるのなら、時代錯誤になる。仕事に対する誇りは、自分だけに見える花一輪としてフラワーホールに挿しておくのが格好いい。
1月18日付 編集手帳 読売新聞
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