1.23.2009

世間とは学ぶこと多き場所・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 画家の安野光雅(あんのみつまさ)さん(82)は例えば教会の風景を写生するとき、屋根の十字架を省略したり、窓の数をわざと違えて描いたりすることがあるらしい。先夜、食事をご一緒した折にうかがった

 なかには親切な通行人がいて、描きかけの絵と実物を見比べ、「十字架を忘れてるよ」「窓が足りないよ」と注意してくれる。そのたびに安野さんは「どうもありがとう」と礼を言い、そのように書き足すという

 紫綬褒章、国際アンデルセン賞、菊池寛賞…いくつもの栄誉に輝く画伯が、見ず知らずの素人に言われて作品に手を加える。なぜですかと尋ねると、「だって、相手の顔を立てないと…」、穏やかに微笑しておられた

 自分の顔ばかりをひけらかす人もいる。警察庁キャリアの警視(36)が暴行容疑で書類送検された。成田空港で制限量を超す液体(化粧水)を機内に持ち込もうとし、注意されてキレたという。「私は警察庁の警視だ。本部長に連絡してもいいんだぞ」などと威張りちらし、検査用のトレーを女性検査員に投げつけた

 教師がいて、反面教師がいて、いまさらながら世間とは学ぶこと多き場所である。

1月23日付 編集手帳 読売新聞

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