1.14.2009

一票ほしさの“釣り餌”を鼻先に垂らされた不快さ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 戦前に船会社を興して三大成り金のひとりと呼ばれ、戦後は第5次吉田茂内閣の農相を務めた内田信也氏に、語り伝えがある。乗っていた列車が転覆事故を起こした

 「神戸の内田だ。金はいくらでも出す、助けてくれ」。そう叫んだと、岩波書店刊「一月一話」などの書物は伝えている。ご本人の回想によれば「金はいくらでも…」とは言っていないそうで、世人がやっかみ半分に尾ひれをつけたのかも知れない

 「総理の麻生だ。定額給付金その他、景気対策に金はいくらでも出す。政権を、自民党を助けてくれ」。首相がそう叫んだわけではないが、世間の耳には聞こえたのだろう

 本紙の世論調査で78%の人が定額給付金に「反対」と答えた。支給をやめ、雇用や社会保障に振り向けるよう望む声が多数である。ご機嫌取りに小遣いを配るような、一票ほしさの“釣り餌(え)”を鼻先に垂らされた不快さを、多くの人が感じたらしい

 内閣の不支持率もついに7割を超えた。自腹の内田氏とは違い、「いくらでも出す」金は税金である。政権の転覆事故が起きる前にもう一度、進むべき線路を点検したほうがいい。

1月14日付 編集手帳 読売新聞

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