1.17.2009

融通無碍、臨機応変こそがプロの証し・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 将棋の大山康晴十五世名人は語ったという。〈得意の手があるようじゃ、素人です。玄人に得意の手はありません〉。融通無碍(むげ)、臨機応変こそがプロの証しであると。永六輔さんの「役者 その世界」(岩波書店)に収められている

 両翼のエンジンが故障した旅客機に、管制官は最寄りの空港に着陸するよう指示したという。間に合わないと判断した機長は着陸という「得意の手」を捨てて着水を選び、人口密集地に墜落する惨事を間一髪で避けた

 米国ニューヨーク市のハドソン川にUSエアウェイズ機が不時着し、155人の乗客・乗員がひとりの犠牲者もなく救出される様子をテレビの映像で眺めつつ、これぞ玄人、プロの仕事に、胃の痛くなるような緊張が身を去らない

 全員が脱出したあと、チェスレイ・サレンバーガー機長(58)はいつ川底に沈むやも知れぬ機内に残り、2度にわたって通路をくまなく行き来して乗客が残っていないことを確認している

 本物の玄人を見たあとである。たとえ酔った勢いにせよ「おれは…のプロだぜ」と粋がったせりふは、ちょっと気恥ずかしくて口にできそうもない。

1月17日付 編集手帳 読売新聞

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