タクシーの運転席は、国や都市の治安を測るバロメーターの一つだろう。運転手と乗客の間にどれだけ“壁”があるか、ということだ
海外には、助手席も含めた前部と乗客のいる後部座席が、透明な板で全面的に仕切られている都市が数多くある。こぶしも入らないほど小さな窓を通して、タクシー代を払わなければならない。運転席の後ろと横が鉄格子で囲まれていることもある。運転手は檻(おり)の中でハンドルを握っている格好だ
日本では、運転席の背後に仕切り板を付けているタクシーがあるものの、装着率は全国で5割程度に過ぎなかった。無防備ではあるが、それは治安の良さの証明とも言えた
過去形で書かなくてはならないのが残念だ。各地でタクシー強盗が相次ぎ、いまだに犯人が捕まっていない事件もある。対策として仕切り板の全車装着が進むのはやむを得ないし、必要なことだろう
今後、より物々しい仕切りが要るようにならないことを願う。運転手さんと景気のことなど世間話を交わせるのもタクシーのいいところだ。鉄格子をはさんで、警戒し、警戒されながら会話するとしたら寂しい。
1月25日付 編集手帳 読売新聞
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