暖かいものと冷たいものが接触してつくる水滴・・・ 編集手帳 八葉蓮華
息でくもる窓に、指で丸や三角を描く。手でぬぐい、また息を吹きかけて今度は自分たちの名前だろう、何か文字を書いている。年の瀬に乗った電車で、姉妹らしき子供が遊ぶのを見た
空気には目に見えない水の粒が浮かんでいて、暖かい空気が冷たいものに触れると、見えない粒はしずくに変わるのです。寒い朝、窓に息を吹きかけてごらんなさい…
何十年か前、小学校の理科の時間に教わった結露の仕組みを思い出したのは、少女たちが小さな靴裏をこちらに向けて顔を寄せ合った夜の車窓に、ふと学校の黒板を連想したせいだろう
暖かいものと冷たいものが接触してつくる水滴――涙もそうかも知れない。〈からたちのそばで泣いたよ/みんな、みんな、やさしかったよ〉。北原白秋「からたちの花」の一節だが、こごえた心が人の優しい気遣いやちょっとしたしぐさに触れて目に露をむすぶ作用は、誰もが経験で知っている
新聞とはときに、「悲しみの入れ物」でもある。心痛む出来事を報じる記事が、紙面を冷たく覆う日もあるだろう。息でくもる小さな窓でありたいと、年の初めに念じている。
1月1日付 編集手帳 読売新聞
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