1.31.2009

周囲の空気を俯瞰できるかどうかで、経営者の人品は知れる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 経営者ならば誰しも、表通りに店舗を構えたくなるものだが、東京都民銀行の頭取を務めた故・工藤昭四郎氏は新しく支店を設けるとき、例えば裏通りの「一歩下がった所」を選んだという

 銀行の支店は午後3時を過ぎるとシャッターをおろし、残金照合などの仕事に入る。商店街がこれから活況を迎える時刻に、シャッターのおりたその部分だけ空気が冷える。周囲に迷惑をかけないように一歩下がるのだ、と

 経済人で作家の辻井喬(堤清二)さんが本紙に連載した回顧録で工藤氏の言葉に触れていた。目を宙の高みに据えられるかどうかで、自分の会社と周囲の空気を俯瞰(ふかん)できるかどうかで、経営者の人品は知れるのだろう

 破綻(はたん)寸前で納税者から公的資金の援助を受けた米国の金融機関経営者が巨額の賞与を受け取っていたことに、オバマ大統領が「恥ずべきだ」と怒りをあらわにしたという。昨年1年間の総額1兆6000億円、納税者の心は冷えたに違いない

 その字のあるなしで「聡」明を語り継がれもし、「恥」を知れと叱(しか)られもする。経営者が胸に刻むべきは俯瞰の目――「公」の一字だろう。

1月31日付 編集手帳 読売新聞
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