5.10.2009

「母の日」元気な声にまさる親孝行はない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 愛とは優しい心に宿りやすいが、愛そのものは優しくはない。容赦なき苛(か)烈(れつ)な力だ、そう述べたのは「惜みなく愛は奪う」の有島武郎である。〈いささかの子の病にも、その母の眼(め)はくぼむではないか〉と

 子供が幾つになっても親の眼はくぼむ。顔が見られなければ、なおさらだろう。「もしもし母ちゃん、オレだけど」「あんた、声がおかしいね」「ああ、インフルエンザのせいだよ」。そういう手口の振り込め詐欺が続発したのは今年の初めである

 新型インフルエンザも、悪党には新しい“飯の種”になる。お隣の韓国では、「あなたは感染者と接触した可能性がある」と電話をして薬の購入などを持ちかける手口が登場したという

 国境を越えて広がる悪事の感染力は、インフルエンザをしのぐ。日本でも「母ちゃん、オレ、感染者と接触したらしい」といった怪しい声に、いまから用心しておくに越したことはない

 国内で初の「新型」感染者が確認されたという。きょうは「母の日」――電話口から聞こえる元気な声にまさる親孝行はない。子の病は親の眼をくぼませ、子の無事は親の眼を潤ませる。

 5月10日付 編集手帳 読売新聞
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