河竹黙阿弥の書いた歌舞伎狂言に通称「鋳掛松(いかけまつ)」がある。貧しい職人の松五郎は金持ちの舟遊びを見て堅気の暮らしに嫌気がさし、悪の道に走る。〈こいつァ宗旨を変えざぁなるめえ〉と
ここでいう宗旨とは勤勉第一に生きてきた信念をさす。松五郎のせりふを現代風に直せば、「ばかばかしくて、もうやってられない」ということになろう
定額給付金をめぐる議論で麻生首相が「矜持(きょうじ)」(=誇り)を説いたことがある。世間にではなく、自身の側近に説くべきであったろう。鴻池祥肇官房副長官が女性問題で辞任した
女性と出かけた泊まりがけのゴルフ旅行で、国会議員用のJR無料パスを使ったという。「1000円高速」に小躍りして大渋滞の列に並んだ人たちの目には、優雅な舟遊びの情景が浮かぶはずである。遊びの足代ぐらいは自分の財布を使いなさいよ――と、68歳の閣僚経験者に公人の心得を説くのは情けない
緊張感ゼロの人が中枢にいる政権から“世紀の危機”を説かれても、あいさつに困る。宗旨はともかく、〈こいつァ支持政党を…〉と思案に沈んだ松五郎さんもどこかにいるだろう。
5月14日付 編集手帳 読売新聞
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