名前を聞くと、ある年齢が浮かんでくる、そういう人がいる。「昆虫記」のファーブルならば56歳――不朽の名著全10巻の執筆はその年に始まっている
やなせたかしさん(90)ならば54歳――漫画家としてなかなか芽の出なかったやなせさんが、アンパンマンを世に送り出したのはその年である。「てのひらを太陽に」は仕事もろくになかった冬の夜、ランプの電球に手をかざしていて浮かんだ詩であると、以前に本紙で語っている
森光子さん(89)ならば41歳――なかなか役に恵まれず、〈あいつよりうまいはずだがなぜ売れぬ〉と嘆きの句も詠んだ森さんが劇作家菊田一夫の目にとまり、初の主役「放浪記」で女優開眼を遂げたのはその年である
暗い地中にひとりじっと根を張った人だけが、やがては太い幹を天に伸ばすことができるのだと、その人たちの人生が語っている。「放浪記」の初演からほぼ半世紀、公演通算2000回の金字塔を打ち立てた森さんに国民栄誉賞が贈られるという
いまもどこかで、不遇の身に耐えつつ悔し涙を肥料にして、志の根を地中深く張っている人がいるだろう。幸あれ。
5月30日付 編集手帳 読売新聞
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