“喜劇王”エノケンこと榎本健一さんは劇団の座長が備えるべき資質を四つ挙げたという。第一に〈芝居がうまい〉、第二に〈金銭に疎い〉、第三に〈怒りっぽい〉、第四に〈腕力でも座員に対抗できる〉
沢田隆治さんの著書「私説コメディアン史」(ちくま文庫)の一節にある。芸が未熟では話にならず、カネに目のない座長に人望が集まるはずもない。短気はときに規律を保つ道具であり、コワモテもまた然(しか)り、各項の意味するところは察しがつく
政治家にあてはめれば、表芸の選挙に強く、気が短くて剛腕で、その人も堂々たる座長になれただろうに、ひとつ欠けていたらしい
「第二」の資質でつまずくのは師匠直伝か、小沢一郎氏が民主党の代表職を辞するという。違法献金事件で氏に向けられたのは〈金銭に疎い〉の逆、金銭に貪欲(どんよく)なのではないか、という疑いの目である。満足な説明ができない以上、辞任は仕方ない
それにしても遅すぎた。各種の世論調査で客席から「引っ込め」のヤジを浴び、しぶしぶ舞台を降りる。〈観客の心に敏感なこと〉を、第五の資質として榎本説に付け加えておく。
5月12日付 編集手帳 読売新聞
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