5.27.2009

聞く耳を持たなければ遅かれ早かれ「鉄火場に朽ちる」さだめ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 着物の帯は二重(ふたえ)か三重に巻くのが普通だが、江戸のばくち打ちは三尺(1メートルほど)の短い帯を一重(ひとえ)に巻き、体の前で結んだという

 後ろから帯をつかまれても腹の結び目を解けば体の自由が利き、逃げられる。捕り手に囲まれたときの用心であるらしい。ばくち打ちを主人公にした芝居を「三尺物」と呼ぶのは帯の長さに由来すると、作家の半藤一利さんが「其角(きかく)俳句と江戸の春」(平凡社)に書き留めている

 米国との交渉力を高める賽(さい)の目と、孤立を深めて自滅に至る賽の目と――核実験を再度強行した北朝鮮は、イチかバチかの丁半勝負を繰り返してきた“ばくち打ち国家”である

 北朝鮮の理解者である中露両国が捕り手の輪に加わるかどうかはまだ明らかでないが、ほとほと愛想が尽きかけているのは確かだろう。重病説もささやかれて胴回りのほっそりした独裁者だが、一重のつもりが二重三重に、今度ばかりは帯の長さを測り違えているのかも知れない

 昔の人は諫(いさ)めた。「ばくちはやめときな。場で朽ちる、って言うぜ」と。聞く耳を持たなければ遅かれ早かれ、〈鉄火場に朽ちる〉さだめである。

 5月27日付 編集手帳 読売新聞
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