5.01.2009

「私は月見草」富士山と対峙して微塵も揺るがない存在感の月見草・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 日本のプロ野球で初の2500本安打を記録したのは南海の野村克也さん(73)(現楽天監督)である。34年前のその日、ロッテ戦の観客はわずか6000人であったという

 歓声も何もない。大記録を達成した人に数十人がぱらぱら拍手をしただけであったと、近藤唯之氏の「戦後プロ野球50年」(新潮社)にある。実力でスター選手に肩を並べても注目してもらえない。長嶋はひまわり、私は月見草――という言葉は試合後の記者会見で語られている

 一昨日、2万人を超す大観衆の前で史上5人目の監督通算1500勝に到達した。「満員の中で区切りの記録に遭遇するとは、俺も晩年になって運が向いてきたかな」。遠い記憶が胸をかすめたのだろう

 「弱いチームにばかり縁がある」を口癖にしてきた。鶴岡一人氏など先行の監督4人が常勝軍団を率いたことを思えば、至芸のボヤキを交えつつ積み重ねた勝利には一段の重みがあろう

 富士山と対峙(たいじ)して微塵(みじん)も揺るがない存在感の月見草を、〈金剛力草(こんごうりきそう)とでも言いたい〉と讃(たた)えたのは「富嶽(ふがく)百景」の太宰治だった。その人にも、太宰創案の名がよく似合う。

5月1日付 編集手帳 読売新聞
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