〈耕して天に至る〉という。段々畑、棚田の美しさと、耕作の過酷さとを伝えて、余すところがない。新藤兼人監督の映画「裸の島」で、冒頭に映し出される言葉としてご記憶の方もあろう
黙々と、営々と耕し、作物の実りがひと重、またひと重と、天の高みに近づいていく。地道に文化を育て守る人に出会うたびに、その言葉が胸をかすめる
日本漢字能力検定協会の大久保昇・前理事長(73)が34年前に漢字検定を始めたとき、受検者は700人に満たなかったという。商売になる保証もない荒れ地を耕しつづけたのは、漢字文化を豊かに実らせる志が胸にあったからだろう。289万人に耕地を広げていくなかで志は狂いはじめたようである
昇・前理事長と長男の浩・前副理事長(45)が背任の疑いで逮捕された。協会の資金を親子に流すトンネル会社をつくり、業務委託費などの名目で2億6000万円を振り込ませたという
親と子は知らず知らずに、「天」という大切な漢字を分解していたのかも知れない。実る作物は2人だけのもの、〈耕して二人に至る〉と。志を欲に変える金銭とは怖いものである。
5月20日付 編集手帳 読売新聞
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