5.13.2009

逃れようにも逃れられない、魂の奥底を流れる調べ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 作曲家の三木たかしさんが作詞家の星野哲郎さんに語った。「演歌は嫌いです。どうしても好きになれない」。珠玉の演歌「津軽海峡・冬景色」の作曲者が“演歌嫌い”を気取るのか――星野さんは少しカチンときたらしい

 つい、「嫌いと言うからには演歌というものを知った上で、でしょうね」と詰問したが、三木さんの答えを聞いて誤解が解けたという。星野さんの随筆「歌、いとしきものよ」から引く

 「洋服を着て、洋食を食べて、どんなに西洋ぶってみても、ついてくる日本がある。ついてきて後ろから引っ張る日本というものがある。私には、それが演歌です」。だから嫌いだ、と

 逃れようにも逃れられない、魂の奥底を流れる調べ。演歌に捧(ささ)げられた、これにまさる賛辞を寡聞にして知らない。「つぐない」「みずいろの手紙」「思秋期」…数々のヒット曲は、〈日本というもの〉の引力と〈個性〉の遠心力とが組んずほぐれつして咲かせた美しい花だろう

 三木さんが64歳で亡くなった。名曲の五線譜に居場所が与えられる日を待っていただろう音符たちを引き連れて、天にのぼるには早すぎる。

 5月13日付 編集手帳 読売新聞
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