江戸期の俳人に小西来山(らいざん)がいる。生家は大阪の薬種商という。代表句は、〈お奉行の名さへ覚えずとし暮れぬ〉。お奉行さんの名前でっか? 知りまへんがな――という句意に、官から自立した民の気骨がうかがえる
お上の威光が輝く江戸の世にこういうせりふが言えたのは、法と常識を守り、後ろ指をさされる傷をもたない商人だけだろう。傷をもつ身が「お奉行なんぞに出る幕はおまへん」とうそぶけば、ただの傲慢(ごうまん)でしかない
日本郵政が西川善文社長以下、取締役9人全員を再任する人事案を株主総会に諮るという。「かんぽの宿」売却問題の経営責任を問う鳩山邦夫総務相は再任に強い難色を示しているが、いまなお実のある説明はなされないままである
国民の大切な財産を引き継いだ会社であり、その財産売却をめぐる不始末である。沈黙が「気骨」の産物ではなく、「傲慢」の産物と映るのは致し方ない
来山には、〈竹の子を竹になれとて竹の垣〉という句もある。日本郵政は真(ま)っ直(す)ぐな竹に育つべき竹の子である。見守る竹の垣は世間だろう。曲がってる? ほっといてえな――は通らない。
5月29日付 編集手帳 読売新聞
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