ある人に「関取、オレンジ色の締め込みですね」と言われ、「いいえ、みかん色です」と答えた話が残っている。ハワイ生まれの東関親方(本名・渡辺大五郎)は高見山の現役当時、〈日本人以上に日本人らしい〉と評された
東京五輪の年に19歳で来日し、高砂部屋に入る。兄弟子に鼻を引っ張られては「これが鼻」、頭を叩(たた)かれては「これが頭」、そうやって日本語を覚えたと回想の文章にある
体が硬く、股(また)割りの痛さに泣いた。兄弟子に「ガイジンはこれ式で泣くのか」と嘲(あざけ)られ、「目の汗です」と答えた。当時20円の初乗り切符で山手線を何周も回り、悲しみを紛らせたと杉山邦博さんの「土俵の真実」(文芸春秋)にある
外国出身者で初の幕内力士、幕内優勝の記録を残し、人なつこい笑顔の記憶を残し、東関親方が来月16日に日本相撲協会の定年65歳を迎える。この夏場所が最後の場所で、あすは親方の土俵人生にとっても千秋楽になる
モンゴル出身の横綱、大関による白熱の優勝争いがつづく。外国人力士の大輪が幾つも花ひらいたのは、その人の「目の汗」が染みこんだ土壌あればこそだろう。
5月23日付 編集手帳 読売新聞
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